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よくわからない?! S-TENについてスッキリ解説!vol.1 ~耐硫酸・塩酸露点腐食とは~

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よくわからない?! S-TENについてスッキリ解説!vol.1 ~耐硫酸・塩酸露点腐食とは~

このブログは特殊鋼のスペシャリストであるクマガイ特殊鋼が、業界ビギナーから百戦錬磨のベテラン社員さん等に向けて、特殊鋼に関する基礎知識はもちろん「なるほど!」と思っていただけるようなまめ知識など、楽しく情報収集していただけるブログを不定期で更新しております。


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※この記事の内容は当社見解でありすべてを保証するものではありません。製品のご購入や加工などの際は当社を含めた専門業者への確認と目的・用途に応じた検証の上、当該材料をご使用ください。


これまで高張力鋼、耐摩耗鋼と強度・硬さの高いものについて書いてきましたが、今回からは少し毛色の変わった耐食鋼について書きたいと思います。


今回は、耐食鋼の中でもニッチで特別な材料である耐硫酸露点腐食鋼についてです。硫酸露点って普段の生活で出会うことはないですよね。

日本製鉄株式会社 S-TENカタログ

S-TEN®︎って?

耐硫酸露点腐食鋼であるS-TEN(エステン)は日本製鉄のオリジナル規格です。1970年代に商標登録されています。


S-TEN1S-TEN2があります。


S-TEN1とS-TEN2はもともと富士製鉄と八幡製鉄が合併して新日鉄が発足した1970年ころに、それぞれの旧2社のフジエステン(Cu-Sb系)とYAW-TEN M(Cu-Cr-Ti系)という耐硫酸露点腐食鋼をS-TEN1とS-TEN2に整理したようです。基本成分系はずいぶん古くから変わっていないのですね。


一時、S-TEN3(Cu-Cr-Sb系)というのもありましたが、10年以上前にカタログから削除されています。

ごみ焼却に伴うダイオキシンによる大気汚染問題が発生した20世紀終わりころ、焼却ガスの急速冷却による低温化により鋼材の塩酸露点腐食が問題になりはじめました。


S-TEN1は、もともと塩酸露点腐食にもある程度強いことは言われていましたが、日本製鉄はいち早くこの改善に取り組みS-TEN1をより塩酸露点腐食に強いものに改良しました。

当時、新S-TEN1と呼んでいましたが、現在のS-TEN1はこの改良されたものになります。


このためS-TENのカタログは『耐硫酸・塩酸露点腐食鋼』に変更になっています。ただし、あとで述べますように耐塩酸露点耐食鋼として推奨されているのはS-TEN1のみです。

硫酸露点腐食、塩酸露点腐食って

そもそも硫酸露点腐食、塩酸露点腐食ってどういうことでしょうか。

私たちが日常よく経験するのは、水露点ですね。


室内の空気中にある水蒸気が、冷たい外気に冷やされたガラス近くでは湿度100%に達し結露します。この湿度100%に達する温度が露点温度です。ちなみに湯気は水蒸気が空気中で冷やされて細かい液体になったもので空中での一時的な結露のようなものです。


車の窓ガラスは、内側が曇ったり、外側が曇ったりしますね。これも車の内外の温度と湿度によって決まります。ただし、発生するのはあくまでも結露した水です。


キンキンに冷えたビールのジョッキが結露しているといかにも冷たそうで一刻も早く飲みたくなりますね。

edjeloopによるPixabayからの画像

水露点はこれくらいにして、次に硫酸露点です。

硫酸露点

重油等には不純物として硫黄(S)が含まれています。これら重油等を燃やした時に硫黄分が酸化してSOxとして発生します。大半はSO2ですが一部さらに酸化が進んでSO3になるものがあります。


それ以外に燃焼ガスの中には水蒸気(H2O)を含んでおり、このSO3とH2Oが化合するとH2SO(硫酸) になります。化学反応式で書くと単純にSO3+H2O→H2SOです。この硫酸の蒸気が結露するのが『硫酸露点』です。


硫酸露点では、高温・高濃度の硫酸になりこれが腐食を引き起こします。さらに厄介なことに露点温度は、排ガス中に水蒸気だけだと例えば50℃であったものが、硫酸の蒸気がわずか0.001%含まれるだけで130℃くらいに跳ね上がります。


多くの条件で露点温度は100℃を超えます。露点温度が高いということは、周りにそれよりも温度の低いものがあると結露する訳で、煙道や煙突等の配管をこのような高温に保っておくのは難しいため、結露が発生しやすくなるのです。

その時の温度によって硫酸濃度は決まります(気液平衡状態より)。


日本製鉄のカタログに載っている図1の60℃-40%、80℃-60%、120℃-75%とかの条件はこれに相当するものです。これら露点で発生する硫酸の温度と濃度に対して腐食量を抑制した鋼材が耐硫酸露点腐食鋼になります。
あくまでも腐食はするのですが、絶対量を抑制できるということです。特に、腐食の激しい、60℃-40%、70℃-50%、140℃-80%など広い条件でステンレスなどに比べて著しく改善できます。この分野では高価なステンレスよりも優れており、S-TENが重宝される理由の一つになります。


なお、SO2とH2Oが反応してできる亜硫酸は酸性雨として問題になることはありますが、硫酸ほどの腐食性はないので、ここでは省略します。

図1 硫酸-水系の気液平衡状態での硫酸浸漬試験結果1)

1) 日本製鉄、耐硫酸・塩酸露点腐食鋼 S-TEN®技術資料 p.2

塩酸露点

塩酸露点も同じようですが、塩酸(HCl)は塩化ビニル製品を燃焼させた際などに発生します。ごみ焼却施設などで塩酸露点腐食が発生しやすいのはこのためです。


硫酸露点腐食との違いで大きいのは、露点温度が硫酸ほどは高くならないことです。

硫酸露点は水露点より何十℃も上がりましたが、塩酸露点では温度差は10℃程度とかで、変わらない場合もあります。従って、硫酸露点ほど高温・高濃度ではなく、60℃-20%程度のようなレベルになります。


このような条件に対して改良したのがS-TEN1です。


ここで注意が必要なのは、さらに温度が下がって、水露点以下になると塩酸露点による塩酸の結露に加えて、水の結露が加わるため、結露した塩酸濃度は水で希釈されて希塩酸になることです。このような条件では、S-TEN1が最良とは言えません。

S-TEN適用の注意

S-TENが耐硫酸鋼と勘違いしてどんな硫酸に対しても良好と勘違いしている場合がありますが、あくまでも硫酸露点という特別な条件で一般的なステンレスを含む他鋼材に比較して腐食抑制されるもので、希硫酸ではステンレスの方が腐食はほとんどしないので良好ということになります。



塩酸露点についても同様に、希塩酸ではステンレスの方が良好な場合があります。ただし、腐食の絶対量はそれほど大きくなく、酸露点腐食ほど問題にならないことは考えられます。

操業上の工夫

硫酸露点腐食、塩酸露点腐食は操業上の工夫によっても抑制することができます。


排ガス温度を露点以上に高くし、配管が外気により多少温度が冷やされても露点温度以上を保つことです。

しかしながら、発電所の効率を追求すると廃熱を利用して熱交換することになり温度は下がってしまいます。また、ばいじん処理対策としても低温化の方向になっています。ごみ焼却炉でもダイオキシン対策として排ガスを急冷する方法がとられています。


このように排ガス温度を上げるというのはあまり現実的ではありませんし、排ガス温度を上げたとしても、操業停止時など排ガス温度が下がることは避けられないので、硫酸露点腐食は発生しうるものと思います。また、排煙脱硫装置によりかなりのSOxを除去することは可能ですが、完全には除去できませんし、その前工程では硫酸露点腐食は起こりうると考えられます。

vol.1 まとめ

S-TENの概要や硫酸露点腐食・塩酸露点腐食について

また、適用や操業時の注意点を解説いたしました。

次回vol.2では、

  • S-TENの規格
  • S-TEN1とS-TEN2について
  • S-TENの溶接、加工
  • 適用例

などを解説させていただきます。

耐食鋼・耐硫酸・塩酸露点腐食鋼板をご検討中でございましら、加工実績や在庫も豊富なクマガイに、ぜひお問合せください。

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続きはこちら— よくわからない?! S-TENについてスッキリ解説!vol.2


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