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ズバリ!耐摩耗鋼(ABREX®︎)のメリット解説 vol.2 加工の注意点と耐熱性比較

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ズバリ!耐摩耗鋼(ABREX®︎)のメリット解説 vol.2 加工の注意点と耐熱性比較

このブログは特殊鋼のスペシャリストであるクマガイ特殊鋼が、業界ビギナーから百戦錬磨のベテラン社員さん等に向けて、特殊鋼に関する基礎知識はもちろん「なるほど!」と思っていただけるようなまめ知識など、楽しく情報収集していただけるブログを不定期で更新しております。

とにかく硬い!摩耗量を劇的に低減

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前回vol.1のブログでは耐摩耗鋼のメリット、硬さや靭性についてご紹介しましたが、今回は以下のような内容を解説していきます。

ズバリ!耐摩耗鋼(ABREX®︎)のメリット解説 vol.1

目次

  1. 耐摩耗鋼ってどうやって作っているのか?
  2. 摩耗の種類
  3. 耐摩耗鋼を使用する際の注意点
    1. 加工
    2. 切断
    3. 溶接
  4. 耐摩耗鋼の耐熱性
  5. 耐衝撃摩耗

1.耐摩耗鋼ってどうやって作っているのか?

すべては開示されていませんが、焼入れで硬くするのは必須と考えられます。必要に応じ焼戻しをすることもあるかもしれません。


成分的にはボロン(B)が添加されることがほとんどだと思います。ボロンはごく微量で焼きが入りやすくできる有用な元素です。
また、硬さに直接影響するのは炭素(C)です。400、450、500と硬さグレードが上がるのに従って、炭素の規制範囲が高くなっていることでもその重要性がわかります。

鋼材を焼入れて生成するマルテンサイトと呼ばれる組織は、炭素量に比例して硬くなることが知られています。

鋼材を焼入れたとき、表面は早く冷えるので、硬くなりやすくなります。

板厚が薄い場合は全体がすぐ冷えてしまう一方で、板厚が厚いと内部にいくほど冷却速度が遅くなります。そうすると焼きが十分入らず、十分な硬さが得られにくくなります。


そのため、板厚が厚くなると焼入れ性を向上させる元素を添加することが必要になってきます。焼入れ性を向上させる元素を添加すると、冷却速度が遅くても焼きが入りやすくなって硬くなるのです。

焼入れ性を向上させる元素として、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などがあります。

これらの元素を添加すると焼入れ性は上がりますが、高価な元素であるということと、あとで述べますが溶接性が下がり割れやすくなるので、バランスを取ることが必要です。鉄鋼メーカーはこれらを考慮し成分を決定しています。

2.摩耗の種類

摩耗の種類としては、アブレシブ摩耗という異物により表面が削り取られる摩耗がありますが、その中に比較的大きな岩石で削り取られるガウジング摩耗、金属間に異物が入り込んで潰されて摩耗するグラインディング摩耗、小さな粒が表面を動いて徐々に摩耗するスクラッチング摩耗などがあります。1)


ABREXのように母相全体の硬さが均一な耐摩耗鋼は、どの摩耗に対しても同じような効果がありますが、耐摩耗鋼のなかには硬い相を母相中に分散せて耐摩耗性を得ている場合があり、これはガウジング摩耗のような場合は効果が減る可能性は考えられます。


1) 市原ら:建設機械33(1997)p.52

3.耐摩耗鋼を使用する際の注意点

耐摩耗鋼の加工

耐摩耗鋼の切削加工穴あけなどの『機械加工』に関しては、硬い分加工しづらくなります。

摩耗に強い鉄板 機械加工の注意点

実は『削りにくい』というクレームを受けると耐摩耗性が良いと言われているようで嬉しくなります。(笑)


耐摩耗鋼は一般鋼材よりは当然削りにくいですが、グラインダーで削ることはできます。これは、グラインダーの砥石には耐摩耗鋼(Hv400~550程度)よりもずっと硬いアルミナ(Hv1600程度)、炭化ケイ素(Hv2400程度)のような硬い素材が混ざっていることによります。


機械加工に関しては硬さに耐える特殊な工具が必要になります。

ホコタテではないですが、素材が硬い分、工具もより硬いものが必要です。


穴あけに対しては、コバルトハイスや粉末ハイスで不十分な場合は、超硬合金が必要になる場合もあります。

切断速度や送り速度の適正化も重要です。

フライス加工に対しても同様です。

適正な先端のチップ(インサート)の選定と切断速度、送り速度の適正化が重要です。クマガイまでお気軽にご相談ください。


耐摩耗鋼の曲げ

耐磨耗鋼板 切断加工 曲げ事例

『曲げ』に対しても、ABREX400をSS400と同じ400だから同等と思って曲げようとすると、異常に荷重がかかったり、場合によっては割れてしまうこともありますので注意してください。

同じ400でも硬さと引張強さで意味が違います。


曲げ荷重は、SS400の3倍~4倍程度必要になります。

曲げ半径も、小さい急な曲げは難しく、板厚の数倍を確保する必要があります。

曲げ方向に関しては耐摩耗鋼に限らず、鋼板の圧延方向(長さ方向)に曲げる場合と、圧延と直角方向(幅方向)に曲げる場合では、前者の方が割れにくい傾向があります。


バナナの皮は長手方向には剝きやすいけど周方向にはちぎれないのと似た現象でしょうか。バナナの皮ほどの差はありませんが、限界に近い曲げを実施する場合は曲げ方向まで注意すると割れを避けることができる場合があります。

また、部材の曲げ端部が切断等により硬化していると、そこから割れが発生する場合もありますので、曲げで伸びる側を面取りすると割れの発生を避けることができる場合もあります。

耐摩耗鋼の切断

クマガイ特殊鋼 ガス溶断機

耐摩耗鋼はシャー切断に対しては、硬すぎるため可能な板厚が限られます。


バンドソー(のこ)切断でも普通ののこ刃ではすぐに摩耗して切れなくなってしまいます。刃を厳選すればのこでも切断可能ですが、一般的には母材の硬さの影響を受けない、溶断で切断されることが多いです。


耐摩耗鋼は硬さが高く、C量もそれなりに入り合金も添加されるので、一般鋼材よりは割れ感受性は強くなります。

ガス切断などの溶断の場合、溶融部近傍は急加熱・急冷却されることになり再硬化します。その際、ガス切断により水素が鋼中に浸入すると、何十時間か経った後に割れが発生する場合があります。

すぐではなく遅れて発生するので遅れ割れと言います。


切断時のガスとしては、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)、天然ガス(メタンCH4他)等があり、燃焼時に二酸化炭素と水が発生するのですが、ごくわずかに水素原子として鋼材中に浸入し、割れの原因となると言われています。硬さが高く、板厚が厚いほど割れやすくなる傾向があります。

割れ防止のためには、切断前の予熱が有効になります。これは切断後、鋼中の水素が移動して表面から抜けていく時間を稼ぐためです。

プラズマ切断レーザー切断では、燃焼ガスと違いこのような水素浸入がないので、切断割れの懸念は減ることになります。ただし、切断できる板厚には上限があります。

また、切断部より少し母材側は焼戻しされることになり軟化部が生じます。

切断線の近い小さな部材では、軟化してしまい耐摩耗鋼の効果が減少してしまいます。この場合もレーザー切断やプラズマ切断の方が軟化部は狭くなる傾向になります。

プラズマ切断機 新設!コマツ産機
TFPL6012 TWISTER(ツイスターブレード)

溶断で連続切断する場合も、母材の温度がだんだん上がってきてしまいますので注意が必要です。元の硬さを確保するには200℃を超えないように制御することが必要になると言われています。



いろいろ注意事項があって大変ですが、耐摩耗鋼の特性を生かすためにやむをえません。効率よりも軟化を避けることを優先する場合は、先に書いたのこ切断のほか、ウォータージェットという高圧水で切断する方法やワイヤカットという放電加工を利用した切断方法もあります。

耐摩耗鋼の溶接

切断でさえかなりの制約がありましたので、耐摩耗鋼の溶接はさぞや大変と思われるかもしれません。

ある面その通りですが、耐摩耗鋼の使い方次第でそれほど問題にならない場合も多いです。

まず、高張力鋼と違って構造物の強度部材として使われることは少なく、耐摩耗鋼と同等の硬さを溶接部に要求されることは少ないです。

表面から摩耗する際に、溶接部だけ集中的に減ってしまっては困る場合は、溶接部もある程度の硬さは必要であり、80キロ鋼用の溶接材料を使ったりします。


しかしながら、溶接部にはそれほど対象物が当たらないで摩耗しない場合、くっついていれば良いということで、軟鋼用の溶材を使うこともあります。

そうすると80キロ鋼の溶接よりも容易ということもあります。


溶接部は溶接による残留応力が存在するのと、溶接により水素が浸入するため、切断のところでも書いた遅れ割れが発生しやすくなります。

遅れ割れを防止するには、水素の入りにくい溶接材料を使うとか、予熱という事前に鋼材を温めてから溶接する方法が一般的です。

予熱温度を何度℃にすれば良いかは成分によって変わってきますので、メーカー各社の推奨条件を確認するか、成分等がわかっている場合は日本溶接協会のホームページにある、溶接情報センター「鋼材溶接性計算」というツールで計算できますので参照ください。


鋼材溶接性計算 一般社団法人 日本溶接協会 溶接情報センター (jwes.or.jp) (外部リンク)


いずれにしても、200℃を超えると軟化する傾向になりますので、注意してください。


また四周をガチガチに拘束するような溶接の場合、残留応力が高くなって割れやすくなるので、特に割れ感受性の高いブリネル硬さ500クラスではより慎重な対応が必要です。


話がそれますが、遅れ割れについてついでにいうと、ガス切断や溶接以外にも、腐食によるものがあります。

これは長期水濡れなどにより腐食が進行すると、鋼材中に水素原子が浸入することにより発生するものです。このような場合は、長期使用後に発生しますので腐食対策は必要です。

普通に濡れてもその後すぐ乾燥するような環境ならば、それほど気にする必要はありませんが、雨がしみ込んでいつまでも乾燥しないような状況は避けるようにしてください。


溶接に話を戻しますが、高張力鋼や耐摩耗鋼のような比較的強度が高く、合金元素の多い材料では鋼材自体が磁気を帯びている場合があります。

そうすると溶接のアークが磁気で曲げられてうまく溶接できない場合があります。

一旦、仮付け溶接で短絡させてしまえば影響は少なくなるようです。

他にもノウハウがありますのでお困りの場合、ご相談ください。

摩耗に強い鉄板 溶接の注意点

4.耐摩耗鋼の耐熱性

耐摩耗鋼はこれまでにも書きました通り、温度が上昇すると軟化する傾向があります。200℃以下が一つの目安ですが、それ以上に熱せられた場合でも、軟化の程度が成分によって変わってきます。

300℃から400℃くらいの高温での摩耗でお困りの場合もご相談ください。状況を確認させていただき、対応可能な鋼材がご紹介できる場合があります。

5.耐衝撃摩耗

クマガイ特殊鋼では、耐摩耗鋼以外に耐衝撃摩耗鋼である高マンガン鋼を取り扱っています。


この鋼材は鋼板表面に岩石、ショット粒などで衝撃を受けるとその部分が硬化して、結果的に摩耗を軽減する鋼材です。

一般の耐摩耗鋼と比較すると、用途によってはさらに大幅な耐摩耗性が確保できます。この鋼材については別途紹介させていただきます。


以上、耐摩耗鋼について思うところをつらつら書いてきました。

耐摩耗鋼は使用上の注意はいろいろありますが、使用することによって

取り替え周期の大幅な延長が期待でき、軽量化を含めてメリットが大きい鋼材ですので、是非ご検討ください。



クマガイ特殊鋼は適用にあたり、各種ご相談に応じております。

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